本調査の目的
- 日本では、発達障害等を中心に、「通級による指導対象」として、または特別支援学級に在籍する児童生徒の人数、割合がともに増加傾向にあります。一方で、障がいのある子を取り巻くDEI(Diversity,
Equity, and
Inclusion)に関する課題はその子らだけのものにとどまりません。現実には、子どものケアに関わる家族の社会的、経済的活動にも大きな影響が生じるます。とりわけ、現在でも性別役割分業の根強い日本では、その子らの母親への大きな負荷が予想されます。
- そこで、本調査では初中等教育段階の子のいる母親のあいだで、子どもの障害の有無、母親の就業状況、またそれらの組み合わせによって、生活時間の状況がどのように異なるのかを検証することを目的とします。
- 以下では、本調査の中心である生活時間にかかわる事項を中心に、基礎的な集計結果をまとめます。
調査概要
- 調査名称:小・中学校に通う子どものいる母親の生活時間に関する調査
- 調査時期:2026年2月24日,25日の2日間
- 目標母集団:調査時点で日本に在住し、義務教育段階の子どものいる25歳~60歳の女性(母親)
- 調査母集団:上記母集団のうち、株式会社楽天インサイトの調査モニタに登録している者
- 標本抽出方法:調査モニタへの調査案内メール配信による非確率抽出。目標回収数に達した時点で回答を締め切った。
- 標本規模:以下2種類の標本を収集
- 障害のある子の母親:スクリーニング質問で医師から障害の診断を受けた子がいると回答した者500名(目標回収数500)
- 障害のない子の母親:スクリーニング質問で障害の診断を受けた子がいないと回答した者1095名(当初1000名を予定したが95名が同時に回答完了)
- 子どもが複数いる場合、前者については障害のある子のうちの末子、後者については末子について回答することとした。
- 調査方法:ウェブ回答(LimeSurveyによるオンライン回答票)
回答者および対象となった子どもの標本構成
print(ageplot)

- 調査にご協力いただいた方のうち、約6割が40歳代の方で、約2割が30代まで、約2割弱が50代の方でした。
- 子どもの障害の有無のあいだでは、年齢の分布に大きな違いはみられませんでした。
print(workplot)

- 回答者のうち、8割の方が現在収入になる仕事をしています。
- 内訳は、約4割程度が、パート・アルバイト、契約・嘱託社員、派遣社員でした。3割弱が正社員・正規職員です。
- 子どもの障害の有無のあいだでは、就業形態の分布に大きな違いはみられませんでした。
print(cageplot)

- 質問の対象となった子どもの年齢分布も、障害の有無のあいだでおおむね類似しているといえます。
- 調査時点で7歳に達していない小学1年生や、15歳に達していない中学3年生がいるため、6歳と15歳の割合は他の年齢よりも少し小さめになります。
print(cgenderplot)

print(cgradesplot)

- 子どもの年齢分布とほぼ対応するように、小学校段階と中学校段階の比は約2:1となっています。
print(diagplot)

- 子どもの障害種別については、障害がある場合は複数選択とし、ない場合は排他的な選択肢として尋ねました。
- 障害のある子の母親サンプル(500名)のうち、約7割は発達障害のあるお子さんでした。続いて、知的障害が22.6%、その他の障害が10.6%となっています。病弱、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、言語障害の割合は2~4%でした。
子の障害・母親の就業別にみる生活時間構造
- この調査では、調査日の前の週の平日(月曜日~金曜日)と週末(土曜日、日曜日)それぞれについて、ランダムに割り当てられた1日について0時から23時30分までのあいだ、30分おきの主な活動について尋ねました。
- 回答画面の背後で、平日については1~5、週末については1または2の乱数を発生させ、各回答者に割り当てました。
- 割り当てられた値に沿って曜日が提示され、その日の生活時間についてお答えいただきました。
- 例:平日の乱数が3、週末の乱数が2だった方は、平日については「先週の水曜日」、週末については「先週の日曜日」についてお答えいただくこととなります。
- はじめにそれぞれの日の起床と就寝の時刻をお答えいただき、そのあいだの時間帯にについて、30分おきに主な活動をお答えいただきました。
- 深夜のお仕事などをなさっている方については、調査終了後にデータを確認し、起床、就寝時刻を確定いたしました。
- 以下のグラフは、各時間帯の主な活動の分布をあらわすもので、クロノグラム(chronogram)と呼ばれます。回答者の就業状態と子どもの障害の有無を組み合わせた4つのグループについて、クロノグラムを作成しました。
print(chrono_wd2)

- 平日のクロノグラムをみると、顕著に異なるのは仕事の時間です。当然かもしれませんが、収入になる仕事をしている方は日中の主な活動が仕事となっています。他方で、非就労の方は家事と育児・子どもの世話、買い物が日中の主な活動となています。この結果は、子の障害の有無のあいだで大きく異なるものではありません。
- 他方、障害の有無別にみると、障害のある子の母親のほうが深夜まで起きていることが見受けられます。子どもの介護・看護の割合も、全体としては小さいですが広く分布しているようです。
- また、とりわけ就労している母親については、子どもに障害がある場合は午前、夕方、夜間の育児・子どもの世話の時間が長いようです。
print(chrono_we2)

- 週末のクロノグラムでは、就労している母親について仕事の割合が小さくなっていることが分かります。
- 障害のある子どもの母親の方が、育児・子どもの世話と子どもの介護・看護の割合が大きいと言えます。
母親の余暇・睡眠時間について
- 人びとのワーク・ライフ・バランスを考える際に、余暇活動や睡眠のための時間をどの程度とれているかは重要な論点です。これらの時間は、日々の義務としての側面が強い活動から受けたストレスを緩和することに寄与すると考えられるためです。
- 先にみたクロノグラムのなかから、余暇活動と睡眠の時間を計算することができます。
- 余暇については、テレビ・ラジオ、動画視聴、休養・くつろぎをまとめて受動的(passive)な余暇とし、スポーツ・運動、その他の趣味・娯楽、交際・つきあい等をまとめて能動的(active)な余暇と定義しました。
- 以下では、平日、週末それぞれについて、余暇時間と睡眠時間をグラフにまとめたものを示します。
print(leisure_graph1)

- 平日の1日あたり余暇時間をみると、就労している方が短いことがわかります。特に、能動的な余暇にかけられる時間が短いです。
- 子の障害の有無で比較すると、非就労の母親の余暇時間全体の平均値は最大です。ただし、能動的な余暇は障害のない子の非就労の母親よりも短いという結果でした。就労している母親のあいだでも、子に障害がある場合には能動的な余暇の時間が相対的に短いといえます。
print(leisure_graph2)

- 続いて週末の1日あたり余暇時間をみると、就労の有無のあいだでは平均値にあまり差がみられません。
- 他方、子に障害がある場合には母親の余暇時間が短いという結果でした。さらに、その短さの理由として考えられるのは能動的な余暇に時間がかけられていないことです。
- 受動的な余暇の時間の長さはどのグループでもおおよそ同じですが、能動的な余暇の時間は、障害のある子の母親の場合はない子の母親の半分から4分の3程度です。
print(sleep_graph1)

- 平日の1日あたり睡眠時間については、子の障害の有無による差が明確です。
- 非就労、就労ともに、障害のある子の母親の睡眠時間が短いという結果でした。非就労の場合は35分、就労の場合は13分短いです。
print(sleep_graph2)

- 他方で、週末の1日あたり睡眠時間については、グループのあいだで差がみられませんでした。
- いずれのグループでも、平均して8時間の睡眠時間がとられています。
母親の主観的なタイムプレッシャー意識
- 子どもに障害があるか、また母親が仕事をしているかによって、ふだんの生活時間構造には違いがみられるようです。それぞれの生活状況のなかで、母親がどのような時間意識を持っているのかについても、この調査では尋ねました。
- 調査では、日々の生活でどれだけ時間に追われているかに関する意識(タイムプレッシャー)について、13の質問に答えていただきました。質問項目は以下の通りです。これらについて、0「あてはまらない」~4「あてはまる」までの値を割り振り、合計したものをタイムプレッシャー得点としました。意味内容が反対の場合は値を反転しています。得点のクロンバックのアルファ係数は0.89で、尺度としての一次元性が高いと判断しました。
- 1日の時間が足りない
- やりたいことをやる時間が十分にある(反転項目)
- すべてをこなさなければならないという重圧を感じている
- すべてをやり遂げることができないまま、毎日が過ぎていく
- よく急いでいる
- 自分の時間の使い方を管理できていると感じる(反転項目)
- もっと自由に好きなことができる時間が欲しい
- 自分の時間の使い方が気になる
- 物事をきちんと準備する時間が十分にある(反転項目)
- やりかけの仕事が終わらないと思うことがある
- 自分の時間の使い方にがっかりしている
- いつも時間が足りなくなる
- しなければならないことに急かされている気がする
print(ctp_graph2)

- このグラフはタイムプレッシャー得点の平均値を、子の障害の有無、母親の就労の有無別に計算したものです。
- 障害のある子の母親の方が平均値が高く、また就労している母親の方が平均値が高くなっています。そのなかで、障害のある子がいて、就労している母親の平均値が最も高いという結果となりました。
print(ctpdiagplot)

- 補足的に、障害種別によってタイムプレッシャー得点の平均値も計算しました。
- 病弱、視覚障害、その他の障害、発達障害が、診断なしの場合と比べて高い平均値を示しています。
- ただし、先に見た通り、発達障害、知的障害、その他の障害以外は人数が少ないので、グラフ中の誤差が大きくなっていることには注意が必要です。全体として確かに言えることは、子どもに障害がある場合にはタイムプレッシャーも強くなっているという傾向です。
母親のメンタルヘルス
- 強いタイムプレッシャーがかかると、メンタルヘルスへの影響も懸念されます。この調査では、Kessler
Psychological
Distressと呼ばれる心理尺度のうち、6つの質問から構成されるメンタルヘルスの指標(K6)を用います。具体的には、過去30日のあいだに以下のことを感じたかを尋ねています。
- 神経過敏に感じましたか
- 絶望的だと感じましたか
- そわそわ、落ち着かなく感じましたか
- 気分が沈み込んで、何が起こっても気が晴れないように感じましたか
- 何をするのも骨折りだと感じましたか
- 自分は価値のない人間だと感じましたか
- これらについて0「まったくない」から4「いつも」までの値を割り当てて、0点から24点までの範囲をとる尺度を作成しました。クロンバックのアルファ係数は0.92で、一次元性が高いと判断しました。得点の値が高いほど、メンタルヘルスの状態が悪いと解釈します。
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- 今回のデータでK6得点を比較すると、障害のある子の母親のほうが高い得点を示しました。
- 就業・非就業の別では、統計的に有意な差はみられませんでした。
おわりに
- 子どもに障害がある場合、ケアにかかわる時間が長くなり、ワーク・ライフ・バランスのとりにくさと関連することは想像に難くありません。本調査の結果からも、その一端を垣間見ることができました。
- このレポートでは、生活時間構造、タイムプレッシャー、そしてメンタルヘルスの分布を確認することを目的としました。今後は、得られた貴重なデータを用いてこれらのあいだの関係や、母親を取り巻くサポート・ネットワークや行政サービスがストレスを緩和しうるのかについて、さらに検討を進めてゆきます。